一般的には相続財産に占める土地や家などの不動産の占める割合は高くなる傾向がありますが、相続でよく問題となるのは実家の相続に関する事柄です。とりあえず相続という形にすると後に問題の解決が難しくなることがありますので、相続の時点でしっかり検討を行うことが大切です。この投稿では、実家の相続に関わる基礎的な問題点を明らかにした上で検討すべき選択肢を提示しますので、皆様のライフスタイルにあった具体的な対策を検討することができるようになります。
実家を相続する場合にかかる税金上の問題点
実家を相続すれば相続税と固定資産税がかかります。
相続税
相続税については預貯金などを含めた相続財産全体にかかる話ですが、実家を相続する場合は税法上の特例があり、相続税額に大きな影響を及ぼしますので、特例が利用できそうな否かを確認することが必要です。
小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例は、「亡くなった方の配偶者が土地と家を相続した場合に、高額な相続税の負担により自宅を手放さなければならない事態を避け、配偶者など、亡くなった方と同居していた親族が自宅に住み続けられるように」という趣旨で創設された制度です。いろいろと要件はありますが、この特例が適用されれば土地の評価額が最大80%減額となるため、大幅な相続税の圧縮になります。場合によっては相続税が発生しない場合もありえます。したがって、実家を相続する人に小規模宅地の特例が適用されるか否かを最初に確認することが重要です。
さらに注意すべきは、亡くなった人の自宅に同居していなかった親族が相続する場合でも、小規模宅地等の特例が適用される通称「家なき子特例」というものもあります。これは同居する親族がおらず誰も土地と家を相続しないと放置された空き家になってしまって空き家問題の深刻化につながるため、相続で家を有効に引き継いでもらうことを目的に作られた特例です。家なき子とは、「被相続人が亡くなる前3年間以上、自分で家を所有しておらず賃貸物件に住んでいた親族」を指しますが、家なき子特例が使える相続人がいる場合には、その方が相続することで相続税の大幅な圧縮が可能となります。
空き家の発生を抑制するための特例措置
この特例措置は、「空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除」とも言われますが、相続した空き家が放置されないよう、耐震基準を満たしたあとで土地と家を譲渡あるいは家を取り壊して更地にしたあとにその土地を譲渡した場合、その譲渡にかかる譲渡所得の金額から3,000万円が特別控除されるという仕組みです。
この特例は令和5年12月31日までの特例となっており、その後は延伸されるか否かは明確ではありませんが、被相続人が亡くなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ることが必要という売却の期間制限があることにも注意が必要です。
固定資産税
土地や家を相続した場合、保有し続ける限り固定資産税を支払う必要があります。但し、住宅用の土地は、課税標準の特例によって課税標準が大幅に減額されています。
【住宅用地の課税標準の特例】
・200平方メートル以下の部分:課税標準を6分の1とする
・200平方メートルを超える部分:課税標準を3分の1とする
この特例は、住宅用地である限り適用されますが、家が建っていない更地は適用されませんので、相続した後に住む予定が無くても、早まって更地にしない方が固定資産税の節約になります。但し、空き家の管理状況があまりにひどく、保安上あるいは衛生上、周囲に悪影響が及ぶと見られると「特定空き家」と認定され、固定資産税の軽減措置はなくなり、固定資産税が6倍になってしまうことになります。
住む予定が無い実家を相続する場合は、相続した後の固定資産税の支払いを含む維持費などの負担額が高額になる可能性がありますので、対策と慎重な判断が必要です。
実家を相続する場合の選択肢
以上みてきた論点を踏まえ、実家を相続する場合の選択肢をまとめると以下のようになります。
相続して自分や親族が住む
土地や家は、相続税がかかる場合は多額の税金がかかる可能性がある資産ですが、要件によっては、小規模宅地等の特例を活用することで大幅に圧縮できるか、相続税自体がかからない場合も出てきます。まず最初に対象不動産の評価額を調べて、相続税の支払いに備えた準備することが必要です。相続税は10ヵ月以内に申告して現金で納付しなければならないことにも留意が必要です。
また、やむを得ない事情がない限り、一般的には土地や建物の共有は避けることが望ましいと考えられています。もし共有名義にする場合は主に以下の点で注意が必要です。
- 共有不動産を売却したり大規模改修する場合には共有者全員の合意が必要となります。
- 共有不動産は共有者が権利を主張できますので自由な利用が制限され利用勝手が悪くなります。維持管理を容易にするためには共有はできるだけ避けるべきです。
- 共有者のひとりに相続が起きれば、場合によっては複数の相続人が共有関係に入ってくるため権利関係が複雑になります。
不動産は分割しにくいため、とりあえず共有の形で相続してしまいがちですが、時間が経てばたつほど、利害関係者が多くなることで、将来に問題が発生した場合の解決が困難になるということによく留意して遺産分割協議をすすめましょう。
相続した実家を他人に貸す
実家に自らが住まなくても他人に貸すことが出来れば不動産の有効活用が出来ます。
実家を賃貸する場合、注意すべきポイントは「手間とコストがかかること」です。物件が実家であっても第三者から家賃収入を得る以上、それは不動産賃貸業というビジネスです。
まずは借り手がいないと話になりませんので、自ら借り手を探すか、不動産会社依頼して入居者を探してもらう必要があります。そして借りてもらうためには大家の責任としてリフォームを行い、電気・水道・ガスなどの維持管理を行うことが必要です。さらに借地借家法や定期借地契約等の専門知識がない場合には、賃借人との万が一の紛争に備えるため、賃貸契約の作成を専門家に依頼することも必要です。賃貸契約の注意点は以前の投稿でも触れていますので、そちらも参照ください。
よく準備した上で事業を開始するのであれば、不動産賃貸業は定期的な収入が入ってくるビジネスですので魅力的です。不労所得ビジネスという甘い認識で取り組むことだけは避けましょう。
実家をそのまま売却する
不動産を維持管理することは手間とコストがかかりますから、住む予定がない場合はそのまま売却することは最も単純で有効な選択肢である場合が多いです。売却する場合は譲渡所得税がかかりますが、さきほど見てきたように「空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除」を使えるのであれば是非使うことを視野に入れて、専門家と相談して計画的な売却を行いましょう。
実家が古くて借り手や売却先が見つからない場合は、更地にしてから土地を売却する方が高く売れる場合があります。この場合も、要件さえ満たせば「空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除」を使えます。
不動産を現金化することは、不動産を複数の相続人で相続する場合の分割を容易にします。売却する場合の一番のメリットは維持管理に関わるコストが無くなることと、一括でまとまったお金が手に入ることかと思います。
更地にしてから土地活用をする
実家が古くて借り手や売却先が見つからない場合は、更地にしてから土地を売却する方が土地の価値もあがり売却をしやすいと考えられますが、土地を貸して再活用する選択肢もあります。
最近は住宅街の中に駐車場が点在している光景をよく見ます。アスファルトで舗装している駐車場の場合はアスファルトは構造物と見做され固定資産税の対象となりますが、貸家とは異なり借地借家法の適用から外れます。したがって、契約期間が訪れた時には更新を断ることができますし、その後、自分で利用したい状態に戻すことが可能ですので、相続資産の当面の活用方法としては有効な良い選択肢です。
相続放棄する
不動産は持っているだけでも手間とコストがかかりますので、一度相続をするとその後の維持管理が大変です。したがって相続放棄という手段もありますが、これは他の相続財産も放棄することになるため専門家に相談して慎重な判断を行うことが必要です。
ちなみに、相続でいらない土地は国に返すことを可能とする「国庫帰属制度」が2023年にスタートしています。もっとも国庫に帰属させるためには細かい要件があるため、この制度がどの程度活用されそうかもう少し様子を見た方がよさそうです。
まとめ
実家の相続は相続人が置かれた立場でいろいろな選択肢が考えられ、また相続税や固定資産税などのお金の面でも非常に複雑です。
住む予定がない場合はできれば売却することが望ましいと思いますが、思い出の詰まった実家を手放すことに抵抗があることも多いと思います。
相続人が複数いる場合は、遺産分割協議の中で相談しながら決める必要がありますので、早いうちから計画的に相談しておくことが一番の対策になります。
是非、早い段階で専門家とも相談してみてください。
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